大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和49年(手ワ)1037号 判決 1974年10月30日

原告

小林敏郎

右訴訟代理人

小林多計士

外一名

被告

久保隆一

右訴訟代理人

山下潔

外三名

主文

原告の請求を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、原告

「被告は原告に対し金七五〇万円及びこれに対する昭和四九年七月一一日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行宣言。

二、被告

1  本案前の裁判

主文第一項と同趣旨の判決。

2  本案の裁判

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

第二  当事者の主張<以下―省略>

理由

一原告は「1 金額一〇〇万円、支払人近畿建設工業株式会社、満期昭和四七年九月一五日、支払地、振出地共豊中市、支払場所豊中信用金庫本店、振出日昭和四七年五月二日、振出人近畿建設工業株式会社、受取人白地、裏書関係近畿建設工業株式会から原告へ裏書、原告の白地裏書 2 金額六五〇万円、振出日昭和四七年五月六日、その余の記載1に同じ」の記載がある為替手形二通を所持していること、被告は右手形の引受をしたことを請求原因とし被告に対し大阪地方裁判所昭和四七年手(ワ)第一、二九一号為替手形金請求事件を提起したこと、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決が昭和四七年一二月四日言渡され、確定したこと、原告はその後右手形を譲り受けた際与えられた補充権に基づき支払人欄を近畿建設工業株式会社から被告に訂正し、受取人欄に近畿建設工業株式会社と補充したうえ本件訴訟を提起したことはいずれも当事者間に争いがなく、成立に争いがない乙第一号証によれば右判決はその理由として「本件為替手形二通につき原告は支払人の主張をしないし、その主張の補充と目すべき本件訴状添付の手形写二通によると手形の支払人欄はいずれも近畿建設工業株式会社であることが認められ、他方手形引受人は双方とも被告である。そうすると為替手形の支払人が引受をなすべきところ、本件手形二通の支払人は引受人である被告と異なるので手形法二五条に照らし無効であるというほかない(最判昭四四・四・一五判時五六〇号八四頁)。したがつて、その余の判断をするまでもなく原告の本訴請求は理由がないことが明らかであるからこれを棄却することとする。」としていることが認められる。

二前件訟訟と本件訴訟とは以上のとおりの経過をたどつたのであるが、進んで被告の既判力の抗弁について判断する。

1右のとおり前件訴訟は受取人欄を白地とする手形に基づく請求であり、本件訴訟は完成後の手形に基づく請求であるが、白地手形の所持人の有する白地補充権及び白地の補充によつて完全な手形上の権利者になりうる法律上の地位(白地手形上の権利)と白地補充権が行使された完成後の手形上の権利との間には連続性ないし同質性があると解するのが相当であり、したがつて前件訴訟と本件訴訟はその訴訟物を同一にし、前者の既判力は後者に及ぶことになる。

2次に、既判力の標準時(事実審の口頭弁論終結時)以前に生じた事由は既判力によつてその提出を妨げられるから、右標準時後に生じた事由のみが後の訴訟においては主張することができるところ、形成権については右標準時前に存在し、かつ行使することができる以上はその行使がたとえ既判力の標準時後であるとしても標準時後に生じた事由として主張することはできないと解すべきである。

そして、白地補充権は権利者の一方的行為により未完成手形を完成手形とし、白地手形行為に完成した手形行為としての効果を発生させうる形成権の一種というべきであるが、前記のとおり原告は白地補充権を前件訴訟の口頭弁論終結時以前に行使することができたにもかかわらず、前件訴訟確定後に行使したものであり、したがつて、前件訴訟の既判力によつて原告は本件訴訟において白地補充権の行使の効果を主張することはできないということになる。

3よつて、被告の既判力の抗弁は理由があるということになる。

三以上の次第で、原告の本件訴訟はその余の点について判断するまでもなく不適法として却下すべきものとし、訴訟費用ついては民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。(佐野正幸)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例